20201015 熊井泰明・大砂雅子

労働条件を確認しない日本人―非正規に退職金・ボーナスを払わない判決―

 

 かつてシンガポールとソウルで勤務した際に、部下の採用と毎年の給料の協議を担当しました。当然のことながら、彼らは労働条件を確認し、その1年間の自分のパフォーマンスを披露し、賃上げを要求します。日本では個別労働者がそれをすることはありませんでした。なぜなら、終身雇用制であり、業務範囲の定義が確定していないからです。13日に最高裁で、非正規労働者に退職金とボーナスを支払わないという判決が出ました。まず今回のケースの雇用契約にその条項がないので当然かもしれませんが、非正規労働が激増している中、政府が言い出した「同一労働同一賃金」の流れに逆行しています。(大砂)

 

 法律解釈は素人であることをお断りしておきます。最高裁が、職場を限定はしていますが、企業が非正規社員に賞与、退職金を支払わないことが正当化されました。判例として確定した以上、これが引き継がれていくことになります。

賞与は業績給、退職金は給与の後払い

 経営の立場からいうと、賞与とは高度成長期には給与支払いの方法のひとつです。年俸を18等分し、3か月分をそれぞれ夏と冬に配分する方法です。なぜそうしたかは、良く分かりません。現在では、毎月の給与が生活給、賞与は業績給という位置づけが多いと思います。

退職金は明確で、給与の後払いです。給与の一部を積み立てて退職時以降に支払う制度で、一時金で受け取るか、年金で受け取るかを選択します。所得税と比べて、税制上優遇されており、退職後の大切な金融資産となっています。

非正規労働は業績連動

 この判決ではっきりしたのは、簡単に言えば非正規社員は明らかに臨時の労働力、もっと言えば使い捨て労働力であることを認めたことです。正社員を雇うと一定額の雇用保険、厚生年金保険、健康保険などの社会保険料や、各種手当、交通費などかなりの固定的な支出が必要です。これに対し、非正規労働者はこの固定費が不要で、全て変動費、つまり業績連動で変えることが出来ます。

 今回の判決は、これを前提にしていると思われます。つまり非正規労働が固定費だと認めると、日本企業には大変な負担になります。そういう事情を忖度した結果だと思います。

「運」が一生を決めるかも知れない

 非正規労働は、全世界に存在します。ただ、日本の大きな問題は本人の意思や努力とは関係なく、卒業年次など「運」で決まることが多いことです。さらに、教育費があまりに高く、親の所得水準で子供の教育機会が決まってしまう。日本の大学進学率はOECD平均を下回っていることが知られており、教育の機会を逸した人が労働市場から脱落することは、先進国共通の問題です。

 

 この判決、とても大きく重い問題を投げかけています。(熊井)