20191021 熊井泰明・大砂雅子

 

「引き算のできない子供たち」

 

 

 

 「ケーキの切れない非行少年たち」(作者:宮口幸治)が売れています。作者は、非行少年の特徴として、軽度知的障害を挙げています。軽度のため、小学校低学年から授業についていけなくなり、高等教育が受けられない。いじめや虐待にあう。ということから非行少年になっていくとのことです。この状態を理解しないで、矯正教育は無意味とのことです。この人口の十数パーセントを占める人たちとは条件が異なりますが、日本人の知的劣化が問題になっています。画一化した型にはめた教育は、戦後の大量消費・大量生産時代には、日本の優位性を発揮したかもしれませんが、見直す時期に来ています。

 

 「10%の利益を見込んで値付けした商品が売れ残ったので10%引きで売ったから利益が出なかった」この文章の間違いを指摘しなさい。

 

 普通に生活している私たちでも、こういう間違いを良く犯します。(正解は1%の損)ただ、こうした引掛けではなく、例えばある金融機関の新入社員に、「消費税が10%になったら現在税込み100円の商品はいくらになるか」という問題を出したら半数が間違えた、という話もあります。

 

 日本人の知的劣化が話題になることが増えました。日本では「読み書き算盤」という伝統があって、基本的な知的水準はかなり高かったと思います。ところが、ある時点からこれが急速に劣化を始めました。私たち大学や研究機関の世界では、論文の引用シェアというものがありますが、日本はこの10年間に世界5位から9位に落ちました。それも日本が得意とした化学、材料科学、物理の分野でシェア低下が目立ちます。

 

 また、世界経済フォーラムが算出する2019年版国際競争力指数で、中国(14位)、タイ(25位)、韓国(28位)などの後塵を拝し、日本の国際競争力は30位に落ちました。特にビジネスの効率性が劣る日本に対する世界経済フォーラムのアドバイスは「働き方改革と同時並行で、人材開発を一層進める必要がある」でした。

 

 何をすればよいかを考えるヒントとなるのは、OECDが実施した調査です。指摘されたのは「読解力」「数的思考力」「IT活用力」の劣化です。読解力では4人に1人が社会生活に必要な力に欠けており、数的思考力では立体から展開図を書けない人が3人に1人、IT活用力では電子メールの内容から会議の予定が立てられない人が2人に1人、という結果でした。

 

 実は、読解力の平均点では日本は上位にいます。ただ、これは日本人のほぼ全員が日本語を母国語としているという特殊事情を考えなければなりません。電子メールも日本語の内容です。そういう優位性があって、なお4人に1人が読解力に欠け、2人に1人が電子メールを読めないことは考えるべき課題が多いと思います。

 

 最近、中学、高校で、平均点という考えが成立しないということを聞きます。昔は平均点あたりの学生数が多く、なだらかに分かる、分からないに広がる山型の点数分布だったのが、現在では「分かる」「分からない」の両極端に分かれるそうです。教室では分からない学生は授業に参加しない、分かる学生は授業が退屈で自分勝手に学習する、という現象が起こっているとのこと。「ゆとり」うんぬんを言い立てても、この問題には何の解決にもなりません。何か、根本的にこの国の人材育成を考える段階に来ていると考えるべきでしょう。

 

 企業では、個人を型にはめるのではなく、個々の成長を促す育成に変わっています。最近の「ブラック校則」の例もあり、日本の教育も人を「型にはめる」のではなく「教え育てる」方向に転換しない限り、日本の将来は暗いものになると思います。