20191104 熊井泰明・大砂雅子

 

追悼:緒方貞子さんが残したnoblesse obligeノブレス・オブリージュ)

 

 

 

日本人で初めての国連難民高等弁務官として、1991年から2000年まで10年間の任期を務めた緒方貞子さんが1022日に亡くなりました。その衝撃が私たちの中でじわりと拡がっているように感じています。「ノブレス・オブリージュ」の核心は、貴族に自発的な無私の行動を促す明文化されない不文律の社会心理だそうです。

 

私(大砂)は、若いころに開発経済学を勉強し途上国支援の仕事をしていました。その頃読んだ緒方さんの著書にいたく感激し、彼女は私の最も尊敬する人物の一人となりました。いずれ緒方さんみたいになりたいと言う私に、知人は、彼女は犬養毅のひ孫だから、noblesse obligeすなわち社会のために尽くす使命感があるといわれ、平民の私にはなれないと却下されました。しかしその本の中の一節に、「女性は時間がかかるのです」という文章がありました。子育てと男性の補助職のような仕事に追われていた私にはとても励みになったものです。彼女が教員をしながら子育てを終え、国連難民高等弁務官になったのは今の私と同じ年齢です。(大砂)

 

私たちに「世界には難民と呼ばれる人々がいる」ことを教えてくれたのは緒方さんだったと思います。UNCHR(国連難民高等弁務官事務所)によれば難民とは、1951年の「難民の地位に関する条約」で「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々と定義されています。この定義によれば2018年末時点で全世界で7,080万人の人々が難民となっています。しかし、日本が受け入れた難民は42人。申請者のわずか0.04%で、しかも理由が明確ならともかく、認定しない理由は開示されていません。もしも日本という国が誇り高い国であるならば、私たちはこの現実と無縁でいられるでしょうか。

 

私たちは緒方さんを、国連機関のトップになり、後にJICA(国際協力機構)の理事長として活躍した、程度の理解しか持ってこなかったように思います。しかし、緒方さんの最大の功績は、国を脱出できない人々をも国内避難民として国連の保護対象としたことでしょう。これは大変なことで、対象国からは内政干渉としてはねつけられるのが当然であるのに、緒方さんは信念に基づいて粘り強く説得を続け、実現にこぎつけたのです。今、私たちが当然のようにニュースで眺める光景は、この努力によって実現しているのであり、その結果数えきれない生命が救われました。信念と理念だけではありません。その行動力に敬服する必要がありますか。そして私たちにはその意思を引き継げるかどうかが問われています。

 

ご冥福をお祈りいたします。

 

「文化、宗教、信念が異なろうと、大切なのは苦しむ人々の命を救うこと。自分の国だけの

 

平和はありえない。世界はつながっているのだから」

 

「あいまいで不透明な問題などというものはない。あいまいで不透明と考えるのであれば、それを個々の課題に落とし込み、課題ごとの方策を考えていくことが肝要」

 

  緒方貞子:地球の名言(www.earth-words.net/human/ogata-sadako.html)より