2019.5.29  熊井泰明

「逃げ恥」は案外ためになる

 

 大ヒットした「逃げるは恥だがためになる」は、実は見ていないのですが、大変示唆に富んだドラマだったようです。そもそも偽装結婚したお手伝いさん、という設定が皮肉に満ちています。当時、「つまり専業主婦の給料が194,000円?」という論争があったように思います。ただ、生活費として102,500円払い、手取りは9万1,500円。日本の最低賃金は平均874円で、先進国では最低。これを基に計算すると、みくりさんは月間約105時間、週5日として1日あたり約5時間働いていることになります。それだけの時間で済むか、という疑問は残りますが。

主婦労働は給料より高い?

 一昨年、あるビール会社が試算した主婦労働の価値は年間4698,670円。国税庁によると、2015年の給与労働者の平均年収が420万円、女性は276万円ですから、ちょっと考えさせられます。

 え、仮に平均的な給与のサラリーマンが専業主婦と結婚していると、奥さんの労働価値は自分の給料より高い?いえ、給料は貨幣価値で、専業主婦の労働価値はシャドーコストのような扱いですから、比較は無理です。ただ、日本の給与水準は先進国のなかでも最低に近く、ピークの1997年から約10%のダウン、手取りにあたる可処分所得は、給与水準で大きく異なりますが、約25%のダウンとされています。多分、これほど給与が減少している国は、先進国には存在しません。日本人の多くは確実に貧しくなっています。

給料減少は1995年が起源

 なぜこんなことが起こったのか。ひとつは1995年に当時の日経連が出した「新時代の『日本的経営』」というレポートにあります。簡単に言えば、働く人を「幹部」「その部下」「その他」に分け、「その部下」と「その他」には「そこら辺の草でも食わせておけ(『翔んで埼玉』より)」という趣旨です。これが政策的にも着実に実行され、今や働く人の約4割が非正規労働者、という時代になりました。さらに、女性は約2人に1人が非正規労働で、「男が主、女は副」という日本の伝統が活きていることもうかがえます。

 投資家ジム・ロジャーズは近著(「お金の流れで読む日本と世界の未来」PHP新書)で日本の若者に国外脱出を勧めています。「逃げ恥」の意味は、方針変更らしいので、自分が生まれた場所に固執しない、というのは十分考慮の余地がある選択かも知れません。

 「この国にはなんでもある。希望だけがない」(村上龍「希望の国のエキソダス」より)。

 

熊井泰明