―ガネーシャの憂鬱― 20190618

 

育休復帰、即転勤―カネカ問題―

 

 ネット炎上したのでご存知の方も多いかも知れません。「夫が育休から復帰後2日で、関西への転勤辞令が出た。引っ越したばかりで子どもは来月入園。何もかもありえない。不当すぎるー」(日経ビジネス電子版より)結局、この社員は退職を余儀なくされました。この会社は化学メーカーのカネカで、すでに社長が社内通達で認めています。(詳しくは下記)

 

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/060300015/

 

 妊娠した女性に対する嫌がらせや差別待遇はマタニティハラスメント(マタハラ)として認識されていますが、最近では産休や育休を取った男性社員に対するパタニティハラスメント(パタハラ)も話題に上るようになりました。カネカが会社としてこの社員に嫌がらせをしたとは断言できません。(ただし、有給休暇取得制限や退職日の指定は労基法違反)しかし、あまりに無神経で配慮のない対応であることは間違いありません。なぜ、こういう問題が起こるのか、その背景を考えてみましょう。

 

 この問題には、「会社に雇われている以上、指示に従うのはあたりまえだろう」という反応も少なからずありました。このあたりがヒントになります。日本の雇用は、基本的に「就社」です。ほとんど白紙状態の新卒を同時に雇用し、社内で異動を繰り返しながら育成する形を取ってきました。この結果、ある特定の会社のプロではあっても技能はない、というサラリーマンが大量に育成されています。しかも、何年会社にいたか、という点が重要であり、転職はそれまでの蓄積を全て放棄することを意味しています。

 

 これが日本的経営の「三種の神器」のひとつ、終身雇用です。(あとは、年功序列と企業内組合)良い点は、実績がない若者でも雇用機会があることで、各国が苦しむ若年失業を防いでいます。ただ、この日本的雇用の美徳は1995年に実質的に放棄されています。

 

 ここへ来て、経営者が「終身雇用は無理」「副業で稼げるようにしてね」と言い出しました。つまり、「会社のプロ」は不要、ということで、しかも政府は金融資産2,000万円ないと老後は無理と、政府の失策と制度の破綻を認めてしまいました。これが何を意味しているでしょうか。これは、最も広義の人件費負担が大きい現在の40代、50代、特に団塊ジュニアとバブル世代を切り捨てる準備をしている、のではないかと思います。

 

 20代、30代はまだ準備が可能です。出来るかどうかは別として、毎月5万円ずつ積み立てればその額は確保できます。35才頃までなら新しい仕事に踏み出すことも可能でしょう。ただ、なるべく公平にかつ会社としての正当性を保って人員を整理するには、マタハラやパタハラは上手い手段のひとつです。社員が追い詰められて、自分から退職するわけですから。

 

 日本の会社員や若者の仕事に対する忠誠心、将来に対する期待は、先進国では最低の水準です。その理由は、この国と社会が「人」を大切にしないことを、国民が認識しているからではないでしょうか。人を大切にしない国にも会社にも未来はないでしょう。

 

カネカのケースはしばらく世の中を騒がせそうです。

 

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