―ガネーシャの憂鬱― 20200212

 

金融講座 42 「サプライ・チェーン」と「コロナウィルス」

 

 

 

 あなたの家の家電製品のうち、中国製品はどのくらいありますか。実は、世界の家電製品の8割は中国で生産されていると考えられています。「いや、ほとんど国内メーカーの製品だ」と考えている方は多いと思います。しかし、本体のラベルをチェックすると中国製と書いてある製品が多数を占めています。

 

 実は、少々のカラクリがあります。分かりやすいのはパソコンで、米国製の半導体、韓国製のメモリー、台湾製のディスプレイ、日本製の部品を中国で組み立てます。この場合、最終組み立て地の中国が生産地になります。Apple製品組み立てを一手に引き受けているFoxconn(鴻海精密工業)が有名です。比較的国内部品をたくさん使うのは自動車ですが、それでも中国を中心とする海外からの部品の使用量は確実に増えています。

 

 「ブラジルの蝶の羽ばたきがニューヨークの嵐を引き起こす」複雑系という考え方があります。日本風に言えば「風が吹けば桶屋がもうかる」でしょうか。実は、産業ではパソコンのように世界中の部品でひとつの製品を作り上げていくサプライ・チェーンという仕組みがあります。製品だけではありません。ビルを作るにしても、骨組みとなる鉄骨は輸入品が主流になりつつあります。国内でも、東日本大震災のときに東北工場製の部品供給が止まって日本中の自動車生産が停滞したことがあります。サプライ・チェーンは多くの産業にとって生命線とも言えるものです。

 

 この仕組みを推し進めるには2つの方法があります。ロジスティクス(流通システム)と規制緩和です。規制緩和が重要なのは、輸出入が滞ったら全ての生産に影響が出るからです。さらに産業界にこういう仕組みがあるため、各国は製品輸出入手続きを簡略化して、さらに関税を少しでも減らす努力をしています。EU(欧州連合)やTPP(環太平洋経済連携協定)などがその好例と言えます。

 

ところが、ここに来て無知からこの仕組みを壊そうという米国大統領が現れました。米国、カナダ、メキシコにはNAFTA(北米自由貿易協定)という仕組みがありましたが、トランプ大統領はこれを完全に放棄して全てを二国間協定に持ち込もうとしました。一応、USMCA(米・加・墨協定)という形に落ち着きましたが、トランプ氏の手法は極端な破滅的恫喝をして自分の言い分を通すdealというやり方です。USMCAでも、日本のメーカーのダメージは免れません。そこへ新型コロナウィルスで、中国を核とする世界のサプライ・チェーンは打撃を受けかねません。ウォール街が密かに恐れるトランプ再選が実現し、世界経済に混乱や恐慌が起こるなら、それは「トランプ恐慌」と呼ぶべきものでしょう。

 

なお、米国の新刊書「A Very Stable Genius」によれば、日本はトランプ氏に「自分に一番媚びへつらう(the most obsequious)男」と唾棄された首相を持ち、米国の言われるままに数兆円単位で武器やむだな農産物を購入、さらに米国資本のために賭場まで作ろうとしていることを忘れてはいけないと思います。  

 

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