―ガネーシャの憂鬱―20191208 熊井泰明

 

金融講座33 1ドルが何円なら良いというのか

 

 

 

 ドルや円などの通貨は世界中で取引され、毎日レートが目まぐるしく変化します。では、「正しい為替レート」というものがあるのでしょうか。市場関係者は「いま、市場で取引されている価格が正しい」という言い方をしますが、実は理論的には正しいレートが存在するのです。

 

 政府や中央銀行が余計なことをしなければ、という前提ですが、話は簡単です。全く同じものが日本で100円、米国で1ドルなら、1ドル=100円が正しいレート、という訳です。これを購買力平価と言います。でも世界中で全く「同じもの」が存在するでしょうか。これがあるのです。マクドナルドのビッグマック。現在、同じものが(牛肉を食べないインドなどを除き)世界100か国以上で販売されています。これに注目したのは英国のエコノミストという経済誌で、毎年1月に各国のビッグマック価格を調べて為替レートを計算しています。少し古くなりますが、20191月の価格で計算した為替レートは1ドル10864銭。128日のレートが1ドル10856銭ですから、いい線行っています。

 

 もちろん、こんなに簡単な話では終わりません。他の要因をいくつか挙げておきます。景気の良い国の通貨は高くなる。資金需要が高まるので。金利の高い国の通貨は高くなる。金利1%の国より2%の国で運用したほうが良いから。通貨量の多い国の通貨は安くなる。たくさんあるものは安い、というのは経済の大原則。安定した国の通貨は高くなる。安心に越したことはない。かつてはスイス・フランや「有事の米国ドル」だったのですが、最近は市場を無視して政府が支える日本円の信頼(?)が高まっています。

 

 ここで注意して頂きたいのは、こうした諸事情で為替レートが変化し、市場がその差を埋めていくことです。円安が良い、円高が良い、という判断はありません。ところが、かつて輸出大国だった日本では円安信仰が強い。100円で売るより105円で売ったほうが、円ベースではもうかるからです。しかし、例えばコンピューターは米国の半導体、韓国のメモリー、日本の部品、台湾の液晶を中国で組み立て、日本が輸入しています。もう、為替がどうのこうの、の世界ではありません。あるとすれば、海外で事業展開している企業の海外資産評価額程度でしょう。

 

 どの国の政府も通貨安誘導の誘惑には勝てません。日本もそうなのですが、消費者としてはどうでしょうか。日本の食糧自給率は約4割、エネルギー(ガス、石油)はほぼ100%海外依存、家電製品もエレクトロニクス商品も輸入品。となれば、円高のほうが良いに決まっています。スーパーへ行けば食品価格、特に加工食品の価格上昇が身に染みるでしょう。かなりの部分、円安のせいです。(1ドル100円が110円になれば円安、90円になれば円高です。基準価格に対して、ではありません。変化の方向です。念のため)

 

 なお、FXという通貨先物運用がありますがこれは賭博です。為替の専門家は口をそろえて「明日のレートが分かるか」といいます。賭博と知って手を出すなら、どうぞ。

 

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