―ガネーシャの憂鬱― 20200222 

 

金融講座43 あり得ないことが起こる―白鳥が黒か緑色のときがくる

 

 

 

 「黒い白鳥を探す」という言葉があります。実際には黒鳥(黒い白鳥)は17世紀には確認されていましたから、「ありえないことを求める」という元の意味は薄れています。その言葉が改めてクローズアップされたのは2008年のリーマン・ショックでした。以来「発生する可能性は極めて低いが、発生したら壊滅的な結果をもたらす現象」のことをブラックスワンと呼ぶようになりました。経済だけではありません。東日本大震災のような自然現象もブラックスワンのひとつです。

 

 ただ、「ありえないことが起こる」ことではありません。例えば巨大隕石の落下などはブラックスワンかも知れません。しかし、起こる可能性が極めて低い、という意味を良く考える必要があります。東日本大震災で福島原発が事故を起こした際、「想定外」という言葉が飛び交いました。可能性としてないわけではない。(福島の場合、『ありうる』ケースだったようなので想定外とは言えないかも知れません。単なる怠惰でしょう)最近、改めて巨大地震の可能性が言われるようになりましたが、多くの人は「今日は大丈夫」「私だけは大丈夫」という正常性(現状維持)バイアスに浸っているのが現状です。しかし、巨大地震はいつかどこかで「起こる」という前提のようです。しかし福島の例も含めて、これもブラックスワンではなく、単なる怠惰の結果だと思います。

 

 自然の力には逆らえない、というのがグリーンスワン、つまり「緑の白鳥」です。こちらは「いま、そこにある危機」です。オーストラリアでは日本の3分の1に相当する国土が焼き尽くされました。国土が焼かれているのは欧州各国でも見られる現象です。南極や北極の氷が溶けていることは確認されています。日本でも今年は雪祭りが中断される街が相次いでいます。環境問題を放置すれば、緑の白鳥が羽根を広げることになります。

 

 実は、このグリーンスワン危機を言い出したのはBIS(国際決済銀行、各国の中央銀行に対する貸し手)とフランス中央銀行です。なぜ銀行が言い出したのか。それは各国の中央銀行(日本では日本銀行)には「最後の貸し手」、つまり金融危機が起こったときに必要なところに資金を供給して破綻を防ぐ役割が課せられているからです。例えば特定の銀行が行き詰まったときには、中央銀行が札束を積み上げて「ほら、大丈夫ですから落ち着いて下さい」と行動します。ところが、オーストラリアの例にみられるような大規模な自然災害が発生して、これが全ての産業に派生していくシステミック・リスクになった場合、中央銀行が取りうる金融政策ではなすすべがない、という悲鳴として受け止められています。

 

 昨年、日本は二つの大きな台風に襲われ、大きな損害が出ました。これが毎年続いたらどうなるでしょうか。あるいは中国を起点とする新型肺炎が広がって、世界的にサプライチェーンが切断されたら。あなたのパソコンは、米国の半導体、日本の電子部品、台湾や韓国のディスプレイで出来ています。その1か所でも途切れたらパソコンは作れません。その時、この世界にはなすすべがありません。黒鳥と緑鳥は世界の命運を握っています。

 

©2020 Yasuaki Kumai, All rights reserved